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『龍馬伝』第三話を見る - 山を越えて土佐を出る、脱近代の高速道

龍馬伝第三話_1『龍馬伝』の第三話では、広末涼子が一弦琴を弾く場面があった。この番組は小道具の演出が素晴らしい。第二話では日本史の教科書で習った千歯こきが登場して印象を残したが、第三話では土佐一弦琴が出た。宮尾登美子が小説を書いていて、何年か前にNHKの連続ドラマにもなっていた記憶がある。それと、今回の放送で特に感銘を受けたのは、武市道場での乱取り稽古のシーンで、数秒間だったが、迫力のあるリアルな映像に驚かされた。以蔵の剣の型について本格的な考証が入っているようにも感じられたし、それ以上に、あの強烈な乱取りは本当に剣道をやっている(有段者のレベルの)人間の実演そのもので、とても未経験の俳優が短時間の演技指導で見せられる代物ではない。少しでも剣道を経験した者であれば、それはすぐにわかる。作品に賭ける監督と演出家の真剣な意気込みが伝わってくる。細部が充実している。手抜きしてないどころか、細部を見せて視聴者を感動させている。テレビの時代劇としては、ディーテイルが目を見張るほど完成度が高い。第二話のラストでの児玉清と福山雅治が歩く高知城下の背景も見入らされたが、スタッフは場面の一つ一つに(説明はなくとも)具体的な実在を想定し、その歴史的情景の再現を意識している。映像作りが絵コンテ的であり、場面の隅々まで凝っていて、黒澤明の製作手法を思わせる。それでいいと思う。日本の時代劇は黒澤明的でなくてはいけない。  

龍馬伝第三話_2第三話は、龍馬が土佐を離れて江戸に旅立つ話で、四国山脈を越えて瀬戸内海を船で渡るところで終わる。第三話で作者が説いて教えているのは当時の旅路だ。今回もずいぶんと勉強させられた。龍馬が歩いたのは土佐北街道という山道で、四国山脈を南北に最短距離で縦断して海に出るルートである。当時は「北山越え」と呼ばれた。このルートは、第6代の山内豊隆から参勤交代で使うようになり、幕末までずっと定着する。それ以前、土佐藩の参勤交代は東の野根山街道を通り、阿波の海岸から大坂へ渡っていた。野根山街道は、太平洋に突き出た室戸岬の周回を避け、半島の根元を直線の山道でショートカットする経路で、現在の奈半利町から東洋町に至るルートである。慎太郎が出た北川村がその途中にある。第6代豊隆のときに経路を変えたのは、紀伊水道をクロスする航路で暴風雨に遭ったためで、海路がより安全な瀬戸内海ルートの方に切り替えた。古代の紀貫之は船で室戸岬を回って全行程を海路で辿り、中世に至っては野根山街道で阿波へショートカットし、藩政時代には「北山越え」の南北縦断で讃岐に抜けるルートを使う。どのルートも難儀だった。ドラマの最後で、「後は江戸まで陸続きぜよ」と龍馬が言うが、その感慨が私にはよくわかる。土佐から江戸までの旅程の苦労は、船が本州に着くまでの部分に大半があるのである。近代、この北山越えの少し東側に鉄道(土讃本線)が敷かれ、高松港から神戸港に渡るルートがメインになる。

龍馬伝第三話_3宮尾登美子の小説を読むと、このルートで大阪と高知を人が行き来する。やがて、宇高連絡船で宇野に渡る経路に変わり、岡山を回って山陽路を東へ向かう交通に変わって行く。現在、瀬戸大橋ができて、遂に旅に船を使うことはなくなった。昨夜(1/17)の放送では、北山越え(土佐北街道)の山道が実にそれらしく映像に再現され、土佐藩領の入出国を管理する関所である立川番所が登場した。場所は現在の長岡郡大豊町立川下名で、参勤交代の本陣にもなった番所跡の建物が重文指定されて今も残っている。私も番組を見るまで気がつかなかったが、現在の高知自動車道は、この北山越えの街道に沿って敷設されている。街道の宿場は、布師田、領石、穴内、本山、立川、馬立、川之江。川之江JCTから高知道に入ると、山の中に馬立PAがある。そして国境の笹ヶ峰トンネルを抜けると、今度は立川PAがある。こんな何もない山の中に何だろうと不思議に思って通り過ぎていたが、道路の設計思想に重要な歴史的意味がこめられていた。脱構築の道路設計だ。超近代から前近代にワープする道路を四国整備局が作っていた。近代、穴内川(吉野川)沿いに大歩危小歩危を抜けて池田へ出て琴平へ至るルートすなわち土讃線と国道32号に変わった街道を、四国整備局が脱構築して近世すなわち藩政時代の北山越えの世界に戻したのである。高知道の距離情報を調べると、高知ICから立川PAまで34キロ、馬立PAまで45キロとなっている。ドラマで龍馬一行が宿泊したのは、笹ヶ峰を越えた馬立宿の想定だろう。

龍馬伝第三話_4当時の人間は健脚で、一日に長い距離をよく歩いた。龍馬も28歳の脱藩の際、高知から檮原までの62キロを一日で歩いている。慎太郎は一日90キロを歩いたとも言われている。あの北川村から城下(高知)まで一日で歩いていたのだろうか。高知から檮原まで一日で歩くとは。しかも舗装もされていない坂道で山道ばかりの険悪な四国山脈の中を。とても想像できないことだが、当時の志士はそれをやってのけていた。高知から檮原までの距離を考えれば、高知から馬立までも一日で十分に歩けるし、二日目に多度津の番所を過ぎ、船で播磨に渡り着くことができただろう。山を越えて、瀬戸内海を臨んだときの龍馬の感動の姿も、決して大袈裟に描かれているのではない。スタッフは内在的によく作っている。龍馬にとって初めて見る瀬戸内海であり、果てしなく連なる山の向こうにある海で、憧れの京や江戸へ渡る海だった。撮影された海が本物の瀬戸内海かどうかは不明だが、やはり、映像に出た海は凪だった。太平洋の荒波を見て育った者は、あの瀬戸内海の凪に驚かされるのである。波が立っていない。海岸に波が寄せて来ない。広い海なのに、まるで池のように静かな海面がある。風があっても波がない。四国の太平洋側の海岸は、晴れて風がなくても白い波が寄せている。波が陸を打つ音がする。四国は小さな島だが、峻険で巨大な山脈のせいで、山の北と南の世界をくっきりと分けている。そう言えば、琴平を経った土讃本線の特急が最初に海岸に出て停車する駅が多度津で、ここで左側から来る予讃本線(しおかぜ)と合流し、二本の特急が並行して高松まで走っていた。多度津で愛媛方面と高知方面に線路が分かれていて、停車時間も長かった。

龍馬伝第三話_5なぜ別の線の二本の特急が並行して一つの駅まで走るのか。それは、山崎を走る東海道線と阪急京都線の偶然とは事情が違う。都会で電車の本数が多いからではない。着いた駅に連絡船が待っていて、二つの線の特急の乗客が一つの船に乗っていたからである。南風としおかぜの車両を降りた二県の乗客は、荷物を抱えて一緒に高松駅のホームと桟橋を歩き、連絡船に乗り込む階段を駆け上がり、デッキにある讃岐うどんの店の前に並んで列を作った。立川番所は土佐の三大番所の一つで、他の二つは東の岩佐口番所と西の池川口番所である。岩佐口番所は野根山街道の途中、起点の奈半利と終点の野根の中間の深い山奥に置かれていた。野根山山頂に近い場所。街道の長さは44キロ。険しい山道だが、旅人は一日で走破したのだろう。司馬遼太郎の『竜馬がゆく』では、最初の江戸行きはこのルートで阿波に出て、岡崎ノ浦から大坂に向かう設定になっている。その海岸でお田鶴さま(福岡田鶴)と出会い、最初の絡みの場面が出る。阿波経由の上方行きは、17世紀までは土佐藩のメインの街道だった。その歴史情報があり、司馬遼太郎も阿波経由で龍馬を江戸に行かせたのかも知れない。が、NHKの時代考証は、18世紀以降のメインルートである北山越えを採っていた。これも脱司馬史観の重要な一つと言える。西の池川口番所は、吾川郡の旧池川町下土居に置かれていた。この事実も立川番所と同様、私には意外な歴史の発見である。伊予松山へ抜ける街道の番所が、なぜ仁淀川沿い(国道33号)ではなく、そこから脇に入った池川にあったのだろう。ということは、近世において、城下(高知)から松山への経路は、面河ダムを通る国道434号の山道だったということになる。前近代否定としての近代。

龍馬伝第三話_6ドラマの第三話は、これまでの二話とは少し違う中身になっていた。それは、主演の福山雅治が演技の持ち味を見せ始めたことである。これまでの二話は、単に台詞を読み上げているだけで、周りの脇役の好演がドラマを引き立てていたが、第三話はそうではなく、視聴者の感情移入を誘う主体的な演技が入り、これまでの印象を変え始めていた。具体的には、宿での弥太郎とのやり取りの場面である。第三話は、これまでパラレルに場面をスイッチしていた龍馬と弥太郎が、一つの場面で会話して感情を見せる同時進行の組み立てになり、絡みの中で二人の内面を深く描く構図になっていた。「弥太郎の視線で描く龍馬像」というドラマの方法の上で、この回は重要な回だったと言える。第三話は封建社会のリアリズムではなく、二人の人間関係と葛藤に焦点を当てていた。本来の龍馬の歴史像を見せる上では、この回は特に必要ないが、NHKのオリジナルの作品の上では決定的に重要な意味を持つ。そして深く考えさせられたのは、この放送回で描かれた格差と貧困の問題への主張だった。単に封建社会の貧困ではなく、作者は現代の貧困を射程に入れたメッセージを発信しているように思われる。現代の問題が意識されている。弥太郎の台詞の言葉は、現代の派遣村の状況を射抜いて視聴者に届けられている。「一緒じゃと、お前は飢えというものを知っちゅうか。腹が減っても食うものがなく、朝起きたら家族の誰かが死んどるかも知れんという者の暮らしがわかるか」。迫真の場面であり、第三話のクライマックスだった。香川照之の演技が絶妙で、相対する福山雅治の表情と内面に彫りの深さが加わった。そして、海に出る龍馬と陸に残った弥太郎が最後に手を振り合って別れる。第三話もまた完結している。感動を作って話を完結させていた。

ドラマとしてわかりやすく、見事というほかない。次は江戸が出る。作者(監督・脚本・演出)は、幕末の江戸をどう見せるだろう。江戸の町と人をどう描くだろう。限りなく魅力的な町だった幕末の江戸。ヒロインは土佐の加尾から江戸の佐那に移る。


龍馬伝第三話_z
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No title

「一緒じゃと、お前は飢えというものを知っちゅうか。~」の件、派遣村もそうですが、ハイチも少しだけ脳裏をかすめました。実際の所全然、実感というか分かってないのでしょうけど。
心中もとい!?新自由主義のご時世、今季は殊に寒さが身に凍みます。

四国山脈

 当地NYCでの龍馬のドラマは、DVDで第一回を終えたばかりですが、今日の記事から、いまだ自分の足では踏んだことのない四国山脈に思いをはせます。若いころ仕事で東京から高知に飛んだとき、着陸寸前に窓から眼下に見えた峻険な山々を、地球の裏から思い出しています。
宮尾登美子「天涯の花」は、主人公が阿波と土佐の国境にそびえる剣山に養女としてもらわれていく話ですが、そこがひとが住むことを拒むような神々の峯であることを思い知らされます。
司馬遼太郎「空海の風景」には、讃岐出身の若き僧空海が、室戸岬で修業する状景がありますが、それ以降も「土佐は鬼国に候」という僻地だったといいます。
話がぴょんぴょん飛びますが、村上春樹「海辺のカフカ」で、物語の終末にカフカ少年が、死の世界に接触する森は、やはり高松から出発して、高知の県境=四国山脈のまっただ中だったと記憶します。
日本の中央に出ることだけでもたいへんな僻地から、維新が生まれたことに、今さらの感激があります。
ところで世に倦む日日さんは、とても四国通ですね。以前当方ブログ「そして龍馬」http://nyckingyo.exblog.jp/7261478 に、土佐のご出身ではないかなどという勝手な推測を書いてしまいましたが、当っていてもはずれていても、たいへん失礼いたしました。
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